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大阪高等裁判所 昭和39年(ネ)599号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し、金三五万円およびこれに対する昭和三七年一二月二九日から支払いずみに至るまで年六分の割合による金員の支払いをせよ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴会社代理人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は、次に記載するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、ここに、これを引用する。

控訴代理人の主張

(一)  株式会社が手形を振り出し、または、裏書する場合に、代表者の記名を必要とするゆえんのものは、その意思表示の責任者を明らかにする点にあるのである。したがつて、右記名が欠けているからといつて、そのことだけで右手形の振出し、または、裏書が無効に帰するものではないと解するのが相当である。

右のように解しないと、経済界における手形取引きはその融通性をいちぢるしく阻害される結果となるからである。なんとなれば、株式会社はほとんど無数に近く存在するが、その多くは、会社名のみを刻印せる印鑑を、ひとり手形の場合のみならず、あらゆる取引上の意思表示を要する場合に押捺使用しているのが現状である。したがつて、その代表者の記名といつても、必ずしも自署あるいは文字どおり記名を必要とする趣旨では決してなく、代表者の捺印、または代表者の記名を白地とする捺印があれば足りるものというべきである。

(二)  ところで、本件手形の裏書欄には、被控訴会社が取引上常時使用するゴム印、会社印が押捺され、加うるに、別に代表者印および代表者の記名を白地とする代表者印が押捺されているのであるから、被控訴会社の裏書としてなんら欠けるところがないといわなければならない。

証拠(省略)

理由

振出部分は原審証人三〓一文の証言によつて真正に成立したものと認められ、また、裏書部分の被控訴会社の記名印および代表者印が真正なものであることに争いのない甲第一号証(約束手形)、および同証言によると、訴外浦田敏長は被控訴会社にあてて昭和三七年一一月二八日、金額三五万円、支払期日同年一二月二八日、支払地および振出地ともに福知山市、支払場所京都銀行福知山支店なる約束手形一通を振出交付したが、右約束手形の第一裏書欄には、裏書人を表示するものとして、単に、福知山市京町二二番地福知山不動産株式会社電話二、八一〇番なる記名判とほかに右会社印、および代表者印が押捺されているだけで、その代表者の署名も、または、これにかわる記名捺印もなされていないことを認めることができ、右認定を左右し得る証拠はない。

控訴人は、右は被控訴会社の裏書として欠けるところがない旨主張する。おもうに、会社その他の法人は、その代表機関を通じてのみ行為することができるのであるから、会社が手形の振出し、裏書その他の手形行為を自らする場合において、これに署名すべきものは、その代表機関であるといわなければならない。しかも、わが実定法規の適用上代表機関による代表行為は代理行為と同様に考えるべきものであるから、手形に署名する方法としては、代理の方式により代表機関が会社のためにすることを明らかにして自己の署名または記名捺印をすることを要するものというべきである。したがつて、手形面に会社代表者の署名または記名捺印がなく、単に会社名の記載、代表者印の押捺があるにすぎない場合には、いまだ会社の署名がなく、その手形行為としての効力を生ずるに由ないと解するのが相当である。右は、取引界の実情に沿い、通説判例の是認するところである。これと異なる形式による会社の署名方法を認めなければならない理論的要請および実際的必要も存しない。これと反対の見解に立つ控訴人の主張は採らない。

以上の次第であつて、右約束手形の第一裏書欄に被控訴会社の記名判、会社印および代表者印の押捺があるだけでは、上述したところからして、いまだ被控訴会社の署名があるというを得ないから、もとより被控訴会社の裏書としての効力を生ずるに由ないといわなければならない。そうすると、被控訴会社が右裏書をしたことを前提とする控訴人の本訴請求は、その余の判断をするまでもなく失当であつて棄却を免れない。

よつて、右と同旨の原判決は相当であるから、民訴三八四条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

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